第259回千代田チャリティ・コンサート

勇猛豪壮の倫理(みち)を説く
薩摩琵琶は武士(もののふ)のたしなみ

梅雨入りしたものの、コンサート当日は良いお天気に恵まれた一日となりました。カレンダーももう半分が終わってしまう6月、いつものことながら時の経つのは早いものです。

さて、今回は薩摩琵琶奏者の川嶋信子さんをお招きして、琵琶の演奏と物語を楽しんでいただきました。琵琶という楽器は、およそ1,300年前にシルクロードを通って日本に伝わってきました。その後、日本で薩摩琵琶、筑前琵琶、楽琵琶、盲僧琵琶、平家琵琶となって発展しましたが、現在ではともに九州にゆかりのある薩摩琵琶と筑前琵琶が主流となっています。今回登場する薩摩琵琶は、戦国時代に薩摩で琵琶を武士のたしなみとするために改良されたものです。

コンサートでは、一部は「方丈記」、「平家物語(那須与一の場面)」、「本能寺」と薩摩琵琶ならではの勇猛豪壮な響きと語りで聴かせていただきました。川嶋信子さんから、「琵琶は音楽を聴いて貰うような楽器ではありません。皆様、音楽を聴くというより、物語を聴くというつもりで耳を傾けていただけたらと思います」とお話しがありました。

薩摩琵琶の演奏では、弦を擦ったり、大きな撥(バチ)で激しくかき鳴らしたり、あるいは弦を押さえ込んで出す独特の「ゆらぎ」であったりと、さまざまな音を出すことができます。これらは、物語のもの悲しいシーンや勇壮なシーンなど場面に応じた効果音のような役目を果たします。川嶋さんの説明をお聞きして、演奏を聴くと確かに琵琶と語りで創られる立体的で臨場感をもった物語であることが実感されます。

二部では、一部とはがらりと雰囲気を変えて、川嶋さんが琵琶の可能性にチャレンジするような恋の歌である「ロミオとジュリエット」など大変新鮮な演奏もご披露していただきました。また、演奏された「花嫁人形」にはどことなく哀愁を帯びたもの悲しい部分があり、そういう影のある唱歌や童謡を昔の日本の子供はよく歌っていましたというお話しがありました。「そんな影のあるものを包含してきたのが日本文化の良さです」と深い洞察を示してくださいました。

最後の曲として「祇園精舎」を皆さんと一緒に歌いました。川嶋さんの丁寧なご指導と音の上がり、下がりを手の動きで示してくださったお蔭で、みなさんがはじめてにも関わらず、大変明るく大きな声でとても上手に歌うことができました。

弊社会長細田敏和が「より一層お子さん達の平和を願ったのは、川嶋さんの琵琶演奏で心が洗われたお蔭かもしれません」と申しておりましたが、皆様も同様に琵琶の演奏と物語の臨場感に癒やされたのではないでしょうか。素晴らしい演奏をありがとうございました。

 フォトレポート

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川嶋信子さんより琵琶のお話し。琵琶には、薩摩琵琶、筑前琵琶、楽琵琶(がくびわ)、盲僧琵琶(もうそうびわ)、平家琵琶と5種類の琵琶があります。現在ではともに九州にゆかりのある薩摩琵琶と筑前琵琶が主流になっています。琵琶は、今から1,300年ほど前にシルクロードを通って日本に伝わりました。

当時、奈良の正倉院に入ってきたルートと九州に入ってきたルートの二通りあると言われています。九州に入ってきたものは盲僧琵琶といわれ、薩摩琵琶より小ぶりで背中にかついで歩けるようなものでした。
そして、戦国時代に薩摩の殿様である島津さんが武士のたしなみとして使えるように改良したものが薩摩琵琶となりました。筑前琵琶は明治時代に入ってから、薩摩琵琶と三味線の間をとったものとなります。また、薩摩琵琶の最大の特徴は、ツゲの木でできた大きな撥(バチ)で世界的にも例を見ません。このバチのおかげで武士らしく、勇猛豪壮に演奏することができます。

琵琶といえば、平家物語という印象がありますが、その中でも有名な那須与一が扇の的を射る場面をお聞き頂きます。語りの場面は、夕暮れ時の屋島(香川県)の海上です。平家と源氏が海を介して対峙しています。戦が静まった夕暮れ時、義経の命を受けた若干17歳の与一が、平家の挑戦を受け舟に掲げられた揺れる扇を射るお話しです。70メートルくらい離れていて、しかも夕暮れどきで、的は船の上でゆらゆら揺れている、さて射ることができるのかというハラハラするような場面です。

琵琶には激しくかき鳴らしたり、弦をすったりと色んな奏法があります。もの悲しいシーンでは、琵琶独特の「ゆらぎ」の音も使ったりします。琵琶は音楽を聴いて貰うような楽器ではありません。皆様、音楽を聴くというより、物語を聴くというつもりで耳を傾けていただけたらと思います(川嶋さん)。

一部最後の物語は「本能寺」です。この本能寺でも、琵琶の音が効果的に使われています。皆様よくご存じの通り、光秀の謀反にあって信長が自害するまでの物語です。

琵琶と言えば、「平家物語」という印象を持たれる方が多いと思いますが、これは平家物語を語るためだけに平家琵琶が存在していること、そして平家と平家琵琶が同時期に発展していったことが大きな原因かと思われます。琵琶による物語は、けっして平家物語だけではないということを知っていただきたいと思います(川嶋さん)。

二部が始まりました。一部とはガラッと変えてお届けします。1曲目は「花嫁人形」です。哀愁を帯びた、もの悲しい曲が昔はたくさんあって、子供達が歌っていました。ちょっと影のあるようなもの、それが日本文化の良さだと思うし、必要だと思います(川嶋さん)。

今回のコンサートのタイトルに「武士のたしなみ」とありましたが、真逆の恋の歌をお届けします。琵琶は明治時代に入って、徐々に女性も弾くようになりました。川嶋さんはせっかくなので女性らしく恋の歌にもチャレンジしたいということで、2曲目は「ロミオとジュリエット」です。流れで曲の後半で「命短し恋せよ乙女」の歌詞で有名な「ゴンドラの唄」が続きます。

ジュリエットが家柄であるとか名前なんて、捨ててちょうだいとそんな気持ちを込めた言葉が「オー!ロミオ!なぜあなたはロミオなの?」です。川嶋さんは、この言葉がとても美しく感じたので、琵琶で演奏してみようと思い立ったそうです。琵琶を演奏する人も、聴く人も少なくなっていますので、そこに危機感を感じている川嶋さん。琵琶の可能性を拡げてみたいと考えられているようです。

あらためて琵琶についての説明です。琵琶はすべて木製で、桑の木から作られています。樹齢100年、200年のかなり大きな桑の木でないと琵琶を作れないため、希少で高価なものとなっています。また、弦は絹から作られています。

5つしかないフレットのため、音階は狭く、弦を押し込んで琵琶特有のゆらぎの音を出したりしますが、それは奏者によって異なります。

そんな曖昧な、不器用な点が逆に琵琶の良さです(「不器用な高倉健さんみたいなヤツなんです」とおっしゃる川嶋さん)。バチは強くてしなる木材であるツゲでできています。大きなバチなのでこれも高価なのですが消耗品だそうです。

次は「音戸の舟唄」です。広島には船を漕ぐときの民謡「音戸の舟唄」があって、これに琵琶で曲をつけました。呉にあります音戸の瀬戸は狭い海峡で、そこを切り開いたのが平清盛と言われています。音戸はとても潮の流れの激しい難所と言われており、そのときに船を漕ぎながら「音戸の船唄」を歌ったそうです。「音戸の舟唄」は「最上川舟唄」、「淀川三十石舟唄」とともに日本三大舟唄とされています。

本日最後の曲となりました。「祇園精舎」を皆さんと一緒に歌います。はじめに川嶋さんが歌い、皆様には感じを掴んでいただき後につづいて歌います。鼻濁音など発音の練習をしてのぞみます。

音の上がり、下がりを川嶋さんが手の動きで示してくださったので、皆さんそれでコツを掴んでかなり上手に歌うことができました。

練習とリアルタイムな川嶋さんの指示の成果が出て、いつものコンサートのときの合唱よりも一段と大きな声でのびのびと歌うことができました。弊社からの花束贈呈で一段と拍手も大きくなりました。川嶋さん、会場の皆様、ありがとうございました。

弊社会長細田敏和より閉演のご挨拶。「このホールのすぐ外に平家物語にも出てくる沙羅双樹の木を植えていたのですが、いつの間にか消えてしまいました。諸行無常の響きありということでしょうか(笑)。コンサートのほうはとても素敵でした」。「しかし、お子さん達を取り巻く環境が本当に酷いことになっていて、一体世の中はどうしてしまったのだろうと嘆くばかりです。お子さん達が外で明るい大きな声で遊び回れるようになって欲しいものですが、こんな気持ちになったのもきょうの川嶋さんの琵琶演奏で心が洗われたお蔭でしょうか」。川嶋さんの琵琶演奏で大切な日本の心に触れることができたように思います。ありがとうございました。